結晶化された古の者たちの深い眠り
永遠の命を封じ込めた物質に
肉体を超越する精神の真価を知る―――
書肆ゲンシシャでは、2017年2月から、終期未定で、「永遠の命」展を開催いたします。
展示するものは「死後写真」。死の直後に、死者たちを撮影した、ダゲレオタイプを始めとする19世紀から20世紀初頭にかけての古写真です。
主に、こうした写真はアメリカやヨーロッパで手がけられ、一回の撮影に時間を要することからも、草創期の写真館では死者の写真を撮影することが好まれ、化粧を施し、服を着せ、目を開かせることによって、まるで生きているかのように死者たちを捉えたのです。
それは死の美化に繋がると共に、写真の中で死者に永遠の命を吹き込む作業でもありました。
なぜこのような写真が流行したのか、ヴィクトリア朝の怪奇趣味、デスマスクの代わりとしての役割など様々な説はありますが、いまひとつはっきりしません。
けれども、こうした写真は現代においても強度を保ち、人々の好奇心をそそるとともに、悲しみや寂しさを呼び起こすものです。
現在、アメリカでトランプ氏が大統領になったり、欧州ではEUからの離脱が叫ばれるなど、まさしく、悪夢が具現化する時代に差し掛かっています。人々の不安や恐怖が現実になって襲い掛かってきているのです。
この「永遠の命」展も、病院や火葬場で隠蔽された死を、今一度、白日のもとに晒す催しでもあります。 死は、多くの人々を不安にさせ、畏怖させます。そして誰しもが死からは逃れられない。
現代の管理社会において隠蔽された死をもう一度前面に出す意味合いが今回の展示にはあるのです。
大きな、たとえば恵比寿の写真美術館などでは未だ取り組まれていない今回の展示に対する関心の高さは、すでにあるSNS上の反響からも窺えます。
世界的にはテロリズムが流行り、死が身近になったものの、日本ではそれがいまだ観念的なものでしかない。それを結晶化された物質である古写真を通して見てもらいたいのです。
巖谷國士先生は、先の対談で、ネット上の画像ではなく、立体的な実物に触れることの大切さを繰り返し説かれていました。 みなさまにも、TwitterやFacebook、Instagram上の画像ではなく、ぜひ実物に触れていただきたい。
「別府は遠い」とのお言葉を繰り返し聞かされました。今後巡回する予定はいまだありません。ぜひこの機会に、ご高覧ください。
幻を視る館、ゲンシシャにてみなさまのお越しをお待ちしております。